闇バイト数百人…なぜ?e-Taxで巨額の不正還付「防ぐことは難しい」元税務官が確定申告の問題点を指摘
2025年5月23日(金) PM5時35分 <PM8時54分 更新>
インターネットで確定申告ができるe-Taxを悪用した巨額詐欺事件を捜査している高知県警は5月22日、東京・栃木・愛媛・沖縄の税務署にうその所得税の申告書を出し、約576万円の還付金をだまし取ったとして匿名・流動型犯罪グループ、トクリュウのメンバーら10人を逮捕したと発表しました。
数百人の闇バイトが関わり、被害総額は数億円に上る可能性もある今回の事件。なぜ、税務署は見抜けなかったのか。専門家に取材すると日本の税制が抱える問題点が見えてきました。
詐欺グループの手口は、さんさんテレビが事件関係者から独自に入手した資料などによると次のようになります。
1. SNSで募集した闇バイトがe-Taxに必要なIDとパスワードを税務署から取得し、トクリュウの担当者に送信
2. 担当者は闇バイトのIDとパスワードを使ってe-Taxで確定申告を行う
確定申告にあたっては、実在する大手企業の仕事の報酬として900万円を計上し、その際、約90万円が税金としてすでに源泉徴収されていると報告。
経費が報酬を上回り赤字が出たと偽ることで、源泉徴収分が還付されるのです。もちろん、実際は大手企業との取引の実態はなく、報酬も経費による赤字もすべてうそです。
税務署で20年以上勤務し、e-Taxの事務処理の経験がある税理士は「それぞれの人がどの企業に勤めて、どれぐらいの収入と納税があるか税務署は把握していない。原則、(提出された申告書の)内容が真正か不正かは判断せずに事務処理は進んでいく」と話します。
なぜ税務署では勤務先や所得、納税額が正しいかどうかを確認できないのか?
背景にあるのが『申告納税制度』です。納税者が自分の所得と納める税金の額を自分で計算して申告する仕組みで、納税者が申告した内容を税務署が信用することが大前提。そのため、申告書の形式や要件が整っていれば、「審査は通っていく。領収書とかは必要ない」と言います。
元税務署職員・税理士:
「申告納税制度上、申告の中身・収入が適正かどうかその都度、判断するのは実質的に困難。e-Tax自体に問題があって起こることではなく、紙で出しても事件はある。マイナンバーカードで省庁が連携したとしても防ぐことは難しい」
不審点がある申告について、税務署が時間をかけて審査を行った結果、申告が正しかった場合、遅れた分の利息を付けて還付することになります。これが会計検査院から問題視される可能性もあり、現場の職員が「板ばさみ」になることもあるといいます。
国税庁は今回の事件を受けて、さんさんテレビの取材に対し「国税当局として、とても遺憾である。効果的な不正還付の防止や、審査等の総合的な見直しを検討している」とコメントしています。